日本放送協会会長

海老沢 勝二 殿

 

 

前略 昨平成十四年十二月十二日付で貴殿宛に送付致しました「NHKの報道に関する公開質問状」に対し、日本放送協会視聴者ふれあいセンター長・鈴木敏光氏を通じて同年十二月二十六日付回答を翌二十七日に受理致しました。年末御繁忙中、御手数を煩はしました段、甚だ心苦しく且つ深謝申上げます。乍併、当方が提起した具体的な質問事項に対する回答としましては極めて具体性に乏しく、誠意ある回答と考へることは困難であります。私共は到底この回答に満足することは出来ず、それに対して以下の反論を具体的な理由を明示して公開することにしましたので、茲に御知らせ致します。不悪御承知おき下さい。             匆々

NHK回答への反論

 平成十四年十二月二十七日に接受したNHK視聴者ふれあいセンター長・鈴木敏光氏の回答(同年十二月二十六日付)は、公開質問状の具体的質問事項に正面から回答することを避け、また事実と背馳するなど、率直さと誠意の感じられぬものである。以下、各質問事項別に反論する。

(1)〈奇跡の詩人〉

回答には「事実通りに描きました」とあるが、当方はその「事実」自体が疑惑の対象となつてゐることを前提に、再度「事実」検証の放送をすること、あるいは「事実」として報道したことにインチキがあつたのであれば潔く謝罪することを要求したのであるが、それには何の回答もしてゐない。

また「現在も・・・・・・取材を続けています」と書きながら、「取材の結果がどうであつたのか」の質問には全く言及してゐない。その後八ヶ月もの長期間取材してきたのならば、当然何らかの結果が出てゐる筈ではないか。

(2)〈国歌と馬の尻〉

「国歌に合はせて意図的に馬の尻の映像を放送した事実はありません」との回答は欺瞞的である。何故なら、あらゆる映像収録と放送はディレクターの判断によつて最も効果的な対象が選定されるべきなので、「偶然に」撮影が行はれるなどテレビ収録ではあり得ないからだ。もし「馬の尻」の撮影がディレクターの本意によらぬものであつたとしたら、ディレクターは怠慢と不注意の責任を問はれるべきである。これもお粗末な言ひ逃れである。また「馬の尻」放映が平成十年第六十五回日本ダービーでの「君が代隠し」に続く少くとも二回目の国歌侮辱である点についても回答は触れる所がない。答へに窮して知らぬ顔を決め込むのは誠意ある回答とは云へない。

(3)〈国旗国歌の放送〉

当方は国旗国歌は毎日、そして国の祝日には特にきちんと放送すべきではないかと質してゐるのに、「放送設備の保守・点検で終夜放送を休止する」場合に放送してゐるからいいではないか、と云ふのは質問者を馬鹿にした云ひ草である以上に、国旗国歌に対する甚だしい冒涜である。歴史の重みを担ひ、また国法にも明確に規定された国旗国歌に対する公共放送の姿勢が斯くもぞんざいであることは由々しい問題である。

(4)〈「朝鮮民主主義人民共和国」〉

「北朝鮮」は地域名であつて国名の略称ではないから一度だけ正式国名で云ひ直すのだといふのはNHKお得意の陳弁であるが、全くの詭弁だ、米国はじめ諸外国は「北朝鮮」North Koreaを国名の略称として使つてをり、英語辞書にもNorth Koreaの略称が記載されてゐる。あの長たらしい正式国名をニュース報道のたびに使つてゐる国は他の何処にもない。NHKの回答が「北朝鮮」を地域名だと強弁して、冗長な正式国名を使ふ云ひ訳にするのは、北朝鮮に対する迎合以外の何物でもない。略称としての「北朝鮮」が内外で定着してゐる事実をNHK回答は隠蔽するものである。

(5)〈拉致事件報道〉

 回答は「以前から拉致問題は節目節目で報道してきた。とりわけ『家族の会』が発足してからは真相の解明を求める動きをその都度、ニュースや〈クローズアップ現代〉等で伝えてきた他、日朝国交正常化交渉のニュースや解説の中では、ほぼ必ず拉致問題を取り上げてきた」とあるが、これは大嘘である。その理由は次の通り。

※文中(  )内は関連「NHKウォッチング」を掲載した月刊誌『正論』の発行年月。

(イ)「家族会」結成は平成九年三月二十五日だが、NHK〈ニュース7〉が初めて拉致問題を報じたのは、何と翌十年七月三十一日、増元るみ子さん達の救出運動を伝へた時だ。「家族会」が出来ても一年半近く無関心だつた訳である。しかもその〈ニュース7〉の中で八月には東京、神戸等で救出を訴へる集会が行はれると報じながら日時も場所も伝へない。集会の盛り上りを望まなかつたからだ。そのニュース報道も「拉致されたとされる」「真相は明らかになつてゐない」等、如何にも胡散臭いと云はんばかりだつた。しかも八月には右の予告通り新潟、東京、神戸など各地で元北朝鮮工作員・安明進氏の告白的証言を中心とした集会が開かれたにも拘らず、NHKは全く報道しなかつた(平成十年十月号)

(ロ)同年十二月六日、中村達が、息女を北朝鮮に拉致された有本明弘氏と共にNHK視聴者センター(当時)の望月、土谷、角野三氏と会ひ、拉致問題についてNHKが報道しない点を追及し、この問題で特番を組むことを要求した時、三人は黙秘を決め込んで一言も答へず、NHKが拉致問題をタブーとしてゐることが明白であつた(平成十年六月号)

(ハ)翌十一年五月二日、東京・日比谷公会堂で「横田めぐみさんたちを救出するぞ!国民大集会」が千九百人もが参加して開催された時も、NHKは六時の〈首都圏ニュース〉も〈ニュース7〉も一言も報道せず。〈首都圏ニュース八四五〉が申し訳程度に一分間だけ伝へたものの、「集会アピール」が「疑惑」の言葉を外すやうに訴へたにも拘らず、NHKは集会参加者の神経を逆なでするやうに「拉致疑惑」と伝へ、またその文字を画面に流しさへした。その上ニュースの最後に「北朝鮮の赤十字会中央委員会は去年六月拉致事件に該当する日本人は国内には居なかつたと発表してゐます」とつけ加へて、頼まれもしないのに北朝鮮の代弁人を演じたのである(平成十一年七月号)

(ニ)同年六月十一、十三日、二夜連続〈NHKスペシャル〉「北朝鮮とどう向き合うのか」を放映したが、この大型スペシャルに於て、何と「拉致」の「ら」の字もなし(平成十一年八月号)。これで「節目節目で報道してきました」等とよく云へたものである。

(ホ)回答には〈クローズアップ現代〉で度々紹介してきたやうに書いてあるが、〈クローズアップ現代〉が拉致を初めて取上げたのは漸く平成十二年四月四日「対話は進むか・日朝交渉きょう再開」に於てである(平成十二年六月号)。回答とは違つて「家族会」結成から三年以上も経つた時期に於てであつた。

(ヘ)日航機「よど号」乗つ取り犯の元妻・八尾恵女が有本恵子さん拉致を実行したことを警視庁で供述し、東京地裁でも証言し、平成十四年三月十二日の民放は恵子さんの両親に土下座して号泣謝罪する八尾女の姿を放映した。なのにこの日の〈ニュース7〉は相変らず拉致疑惑≠フ文字を麗々しく画面に出し、その上「拉致はでつち上げ」と云ふ「よど号グループ」の主張まで紹介した(平成十四年五月号)。これは拉致の事実を矮小化しようとの意図の表れと見る他ない。

(ト)同年三月二十二日、小泉首相訪韓を伝へるNHKニュースは従来の「拉致疑惑」を「いはゆる拉致」に初めて変更した。八尾証言などでもはや「疑惑」では通らぬと判断したからだらうが、ならば率直に「拉致」と明言すべきである。「いはゆる」を冠するところに、何としても北朝鮮による拉致を認めたがらないNHKの本音が隠見される(平成十四年六月号)。三月二十九日テレビ朝日〈ニュースステーション〉でさへ「拉致はもはや疑惑ではなく事実となつた」と率直に伝へてゐるのである(平成十四年六月号)。事実を直視する点でNHKは民放以下であつた。

(チ)同年三月三十一日、山本、森田両アナによる「総理に問う」では、一時間番組があと五分で終りになるといふ頃、漸く森田アナが「北朝鮮(慌てて)朝鮮民主主義人民共和国との関係ではいはゆる拉致問題≠烽りますが」と、ほんの申し訳程度に触れただけで、解決の決意や方途についての突つ込んだ質問は全くなし(平成十四年六月号)

以上(イ)〜(チ)に照らして見る時、九月十七日小泉訪朝まではNHKが拉致問題を意図的に無視あるいは軽視してきたことは疑ひない。回答は事実の流れと違つたことを述べ、我々が質してゐるNHKの責任に全く触れてゐない。

〈教育番組〉

 質問は具体例を挙げてNHK教育番組の偏向を質してゐるのに、回答はそれについては答へず、顧みて他を云ふかの如くである。回答に真面目さを感ずることが出来ない。

〈皇室敬語〉

 当方はNHK回答に云ふやうな「平易、簡潔、親しみ」等の要素を否定してゐる訳ではない。だが「親しき中に礼儀あり」と云ふ。NHKの皇室敬語の用法が疎略非礼に渡るところがないかを質してゐるのであるが、それには何の言及もない。此処でも具体例を挙げて質問してゐるのに、抽象的な原則論で質問をはぐらかさうとしてゐる。

〈戦争・歴史番組〉

 「偏向報道是正」の意思の有無を問うてゐるのに、それには回答せず、「基本姿勢の堅持」などと云つた抽象論でお茶を濁さうとするのは甚だ不誠実である。

〈南京虐殺三十七万人〉

 NHKに虐殺数について公式見解がないとすれば、平成九年十二月六日の談判でNHK視聴者センター責任者は嘘を云つたことになる。更にまた、南京虐殺者数についてNHKに公式見解がないのであれば、虐殺三十万人以上を主張する論者の意見のみを番組で紹介してきたことは明白な片手落ちで放送法の定める「公正」報道の原則にも反する。今後は大虐殺批判派の見解をも紹介して報道機関としての公正な姿勢を示すべきなのに、回答には左様な謙虚な反省の気持が全く感じられない。

以上、何れの質問事項についてもNHK回答はお座なりの抽象論に終始し、時に事実からも逸脱してをり、当方が提起した具体的質問事項に対する率直かつ誠意ある回答と認めることは出来ない。我々がNHKに求めた誠意ある対応がこれ以上のものでないとすれば、もはやNHKに一片の誠意あるを信じて言葉の応酬を繰返すことは無駄であらう。今後は受信料不払運動の拡大は無論、政治的法的また社会的な凡ゆる手段により、公共放送としての自覚も責任感もなきNHKの報道姿勢を追及断罪してゆく所存である。

平成 十五

(代表質問者)NHK報道を考へる会代表      

獨協大学教授            

中村  粲

                  NHKに物申す市民ネットワーク代表 

小林 幸子

神奈川大学教授           

小山 和伸

日本会議東京都杉並支部長      

和田  昭

  NHK報道から子供達を守る会代表  

松浦 芳子

弁護士               

高池 勝彦

弁護士               

南出喜久治

弁護士               

稲田 朋美

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