「NHK公開質問状回答への反論」の文中に記載の質問事項に関連する月刊誌『正論』連載の「NHKウオッチング」の該当部分を抜粋してご紹介させていただきます。(記載順)

★(5)〈拉致事件報道〉関連

平成十年十月号

漸く拉致報道――訴訟対策か?

 七月三十一日のニュース7。珍らしく、二十年前に北鮮に拉致された増元るみ子さん達の救出運動を紹介した。拉致問題の報道を拒んできたNHKがこれを取り上げたについては、救出運動関係者の東奔西走の努力は無論であるが、本欄が継続的にこれを追及してきたことや、この度のNHK訂正放送等請求訴訟で拉致問題を取り上げてゐることが漸く効果を現し始めたものとも考へられよう。

 ところが、八月には東京・神戸などで救出を訴へる集会が開かれる予定であると報じながら、日時や会場は全く紹介しない。これでは参加したくても出来ないではないか。左翼の反日集会は日時、場所、問合せ先の電話番号まで紹介する癖にである。救出運動が拡がらない程度に紹介するといふ、NHK独特の手のこんだ陰湿な細工がここにある。

 その上、元北鮮工作員の安明進氏の告白的証言で拉致の事実がこれ程明白になつてゐるにも拘らず、依然として「拉致された」「真相は明らかになつてゐない」等、北鮮に対する卑屈なまでの気の使いやう。安氏の話に証拠価値がないと云ふなら、これまでNHKがカメラの前に引つ張つてきた自称・元慰安婦達の話にどれだけ証拠価値があると云ふのか。NHKは証拠価値判定基準を公表すべきである。尤もこの論議はNHK訴訟の中で必ず争点になることではあるが――。

 八月に入ってから一日新潟、四日東京、六日神戸など各地で安明進氏の証言を中心とする集会が開かれたが、NHKは知らぬ顔で通した。これがNHKの本心であつて、右のニュース7の報道はNHKの姿勢の変化を示すものでは決してない。筆者達がNHKを提訴したため、慌てて俄か証拠≠作り始めたのに過ぎない。が、これは無論証文の出しおくれといふものだ。

(後略)

(平一〇・八・一七)

平成十年六月号

拉致問題、なぜ報道したがらない??

 北朝鮮拉致問題についてNHKがファシズム国家さながらに報道管制を布いてゐるのは事実のやうだ。去る二月二十二日、昭和五十二年に新潟市内で北鮮工作員に拉致された横田めぐみさんの両親達がJR柏駅前で「拉致された同胞の一日も早い救出を」と訴へる署名活動を行つた。昨年三月に始つた署名活動で、既に約七十五万人の署名が寄せられてゐる。この日は午後、三時間の街頭活動で千三百二名の署名が集り、この問題に対する人々の関心の高さを示した。

 これに先立つて北朝鮮拉致救出活動グループはNHK千葉支局の小堀ニュース制作部長宛に、解決への世論を盛上げ、拉致家族の人々を励ますために取材と報道を希望するといふ取材要望書を送つたのだが、NHK側はこれに対して全く反応を示さず、取材と報道を拒否した。これについては二月二十五日、自民党本部で開かれた「NHK偏向ビデオ」上映会の席で、救出活動グループの西村修平氏から詳細な報告があり、居並ぶ議員達も、NHKがこの重大な国際的人道問題の報道を拒否したことに動揺の色を隠せなかつたやうだ。因にCTC千葉放送はこの運動を二分間にわたり、詳報してゐる。

 三月十五日はJR川崎駅東口で、拉致救出を訴へる署名運動が行はれ、産経、読売、毎日の各紙が写真入りで報じた(朝日、神奈川両紙は無視)。ところでいつもは姿を見せないNHKなのに、今度は横浜支局の記者が取材に来た。拉致家族の人達に色々話を聞いたあと「今晩のニュース7で紹介します」と確約して引上げた。そこで関係者一同、あちこちに連絡して「ニュース7」を、ビデオまで用意して見てゐたがサツパリ署名運動の話が出てこない。「変だ、変だ」「あれだけ約束したのに」としく思ひながら調べたところ、午後六時からの首都圏ニュースで僅か一分間、放送されたことが判明。早速関係者が視聴者センターに「何故約束通りゴールデンタイムのニュース7で放送しなかつたのか」と抗議したところ「何時のニュースで扱ふかはこちらの勝手。ともかく放送したのだからいいではないか」と、けんもほろろの応答だつたと云ふ。

 北鮮拉致事件は首都圏限りの問題ではない。拉致発生の場所も新潟、福井、鹿児島から欧洲にまで及んでゐるし、事柄の性質が明らかに国家的であり、国際問題なのである。ローカルニュースで「この通り放送しました」とお茶を濁して済むことではあるまい。一体、NHKのニュース感覚、人道感覚はどうなつてゐるのか。反日活動ならどんな些細な動きも刻明に密着取材して全国放送し、運動を増幅拡大させて煽動するくせに、こと拉致問題となるとかくも報道方針が一変するのは、何か裏にあるやうな気がする。

(中略)

拉致問題で緘口令か*

 北鮮拉致事件でNHKが特番を組まない理由について市民側の追及が続く。

市民側「何故放送しないのか」

NHK「・・・・・・」

市民側「ここに拉致された女性のお父さんが居らつしやるんですよ」「自分の国の同胞がさらはれてゐるんでしよう」

NHK「・・・・・・」

市民側「これは強制連行どころではない」「これでも平和と云へるのか」「土谷さん、あなたの家族の身代りになつたのと同じではありませんか」

土谷「・・・・・・」

 外で待つ数十名の市民達もしびれを切らしたのか、ドアを押し開けて入らうとするらしい。ドアを叩く音、蹴る音。ドアがミシミシ鳴る。NHK側、真つ青になつてドアのロックを確認する。

市民側「拉致事件を放送して、何か具合の悪いことでもあるのか」

NHK側「・・・・・・」

市民側「朝鮮人がこはいのか」

NHK側「・・・・・・」

市民側「例へば平壌にNHK支局が開設できない、といつたことにでもなるのか」

NHK側「・・・・・・」

市民側「なぜ黙つてるんですか」「さつさと答へてくれよ」

「お答えできません」に終始

 NHK三人男の黙秘戦術に「市民ネット」側の苛立ちは爆発寸前。口々に返答を迫るが、三人男、顔面の如く蒼白となり、唇を固く閉ぢた儘、一言も発せず。この問題では明らかに組織的な緘口令が布かれてゐると見えた。一体、団交の冒頭「今日は理解し合ひ、信頼し合へる話合ひにしたい」と云つた土谷信夫視聴者センター長の言葉(本誌三月号参照)は何だつたのか。自分で云つた言葉を早くも忘れてゐるこの無責任さには一同唖然とするばかり。

三輪「では今までのことはさて措き、今後、拉致問題は放送して頂けるのか」

土谷「・・・・・・ま、あれですね・・・・・・この場でやるのか、やらないのかと云はれても・・・・・・私の立場ではお答へできません」

 これには「市民ネット」側も騒然となる。

土谷「特番を組むだけの情報素材が集まるかどうか・・・・・・」

市民側「何を云ふんだ。民放だつて特番組んでるんだよ」「NHKに出来ない訳がないじやないか」「反日スペシャルのためには、とんでもない遠い国までNHKは行つてるじやないか」「NHKが声かければ情報などいくらでも集まるだらう」「何なら一週間で集めて上げてもいいよ」――市民側はNHK側の空々しい対応にほとほと愛想を尽かせた様子。

市民側「番組制作担当者をちやんと呼んでこなければお話にならない。『お話は判りました。私には答へられません』では新入社員と変りないじやないか。こんな話合ひは無意味だ」

市民側「他のどんな特番より拉致問題の方がよつぽどニュースバリューがある」「何より日本人として最優先で扱ふべき問題じやないか」「日本人として当然でしよ」「土谷さん個人は特番やりたいと思ひますか」

土谷「・・・・・・今それを判断する材料がないんです」――又々騒然。「個人としての考へを聞いてるんですよ」「材料なんかNHKにいくらでもあるじやないか」(以下次号)

(平一〇・四・一七)

平成十一年七月号

北朝鮮による日本人拉致で国民大集会

 五月二日、むせ返るやうな新緑に包まれた東京・日比谷公会堂で「横田めぐみさんたちを救出するぞ! 国民大集会」が開かれ、千九百名が参加する大盛会となつた。ジャーナリスト・櫻井よしこさんを代表とする著名人約百二十名が呼びかけ人となつて提唱した集会で、身内を北朝鮮に拉致された家族の人達が壇上から、北朝鮮の蛮行に対する非難と政府やマスメディアの無為と無関心への憤りを表明して、拉致された人々の速かな救出を訴へた。

 筆者が拉致事件を初めて知つたのは昭和五十五年一月七日及び九日付『サンケイ新聞』報道によつてである。一面トップに「アベック3組ナゾの蒸発/外国情報機関が関与?」の大見出しで報じてゐた。今にして思へば、実に的確で見事な報道だつた。ピンときた筆者は、直ぐさま新聞をコピーして講義で学生に配布し、「これは北朝鮮の犯行に間違ひない。極めて重大な問題なので今後の成行きに注意して居給へ」と話したのを昨日の如く思出す。予感的中。あれから二十年、北朝鮮工作員による拉致事件として漸く世間の話柄となり、内外の耳目を集めるやうになつた。サンケイ紙だけでなく、他のメディアが当時一斉にこの事件を取り上げてゐたなら、早期に解決への糸口がつかめてゐたかも知れない。だが、北朝鮮を恐がり、する朝日新聞、NHKなどは日頃の主張とは裏腹に自主的に報道管制を布き「国民の知る権利」を平然と踏みにじつた。事件解決の遅れは、これら親北朝鮮メディアの責任と断じてよい。

申し訳程度のNHKニュース

 当然ながら、右国民大集会のNHK報道が筆者の関心事となつた。結果は、当日夕刻の首都圏ニュースも夜七時ゴールデンアワーのニュース7も全く放送せず。午後八時四十五分のニュースが、やつと申し訳程度に一分間伝へただけ。しかもその報道は次のやうに甚だしく偏向したものだつた。

(1)問題の重大性からすると一分間といふ放送時間は短か過ぎる。殊更にこの深刻極まる人権問題を軽く扱ひ、卑小化しようと企てるNHKの魂胆ありありだ。

(2)事件は「事実」として確定してゐるのであるから「疑惑」といふ言葉を外すべきであると、集会で採択されたアピールが訴へてゐるにも拘らず(NHKにもこのアピールは配布されてゐる)、NHKは集会参加者の神経を逆なでするやうに拉致疑惑≠ニ伝へ、またその文字を画面に流しさへした。これも多分、北朝鮮側が見ることを意識して免罪符にして頂く≠ツもりなのだらう。

(3)シンポジウムのパネリスト五人の中、代表呼びかけ人且つ司会者である櫻井よしこさんと実行委員長の佐藤勝己氏の二名だけを、NHKニュースは画面からカットした。この二人を画面に出すと北朝鮮サイドから抗議されることを惧れたこと、著名人を紹介することで運動の輪が広がるのを好まなかつたことが理由だ。因にニュースは櫻井さんが代表呼びかけ人であることさへ伝へなかつた。これは平成八年十月、神奈川県教育委員会主催の講演会で櫻井さんが「慰安婦強制連行」に疑問ありと発言して「かながわ(偽)人権フォーラム」からその後の講演を妨害された事件があつたが、それ以来櫻井さんは、「強制連行」説で視聴者洗脳を目指すNHKからは完全に干されてしまつたのだ。公共放送としてあるまじき思想信条による出演者差別ではないか。

(4)最も許せないのは、ニュースの最後に「北朝鮮の赤十字会中央委員会は去年六月(拉致事件に)該当する日本人は国内には居なかつたと発表してゐます」とつけ加へて北朝鮮政府の代弁をしたことだ。

実は右国民集会のことは、四月二十一日夜八時半のニュースが予告放送したのであるが、それも「拉致」についての集会であるといふだけで、「いつ」「どこで」開催されるかといつた視聴者の最も知りたい点は全く触れず仕舞ひ。盛会にしないための特別な配慮≠ゥらだらう。NHKは肝心なポイントを省略することで、この国民大集会予告のニュース価値をゼロにしてしまつたのである。それでもニュース番組として放送したのだから無神経もいい所だ。

(後略)

(平一一・五・一六)

平成十一年八月号

(前略)

拉致問題無視した「北朝鮮」特番

 二夜にわたるNHKスペシャル「北朝鮮とどう向き合うのか」(六月十一、十三日)。漸くNHKも北朝鮮の特番を作る気になつたかと、ともかく見てみたが、やつぱり駄目。「軍国主義」や「拡張主義」の大嫌ひな筈のNHKさんも、この地上で最も好戦的な専制国家の北朝鮮に対しては一言の批判も疑念も表明することなく、「強盛大国」を目指すこの国の間接宣伝に終始した提灯持ちの番組。「日本人同胞拉致事件」に言及するかと一縷の望みを寄せたが、拉致の「ら」の字もなし。日本の国家と国民にとつて最も痛切なこの問題を飛び越えて「北朝鮮と向き合ふ」ことにどんな意味があると云ふのか。この番組は所詮、大々的な前宣伝とは裏腹に、「北朝鮮もこの通り番組に取り上げました」といふNHKの免罪符であり、制作者のお遊びでしかない。

不誠実な対応に視聴者の怒り

 当然ながら、多くの抗議がNHKに寄せられた。いつもの苦情処理窓口の視聴者センターでは手に負へず、抗議は全て制作担当に回されたと云ふのだから、何とも無責任な、御都合主義の体制である。西村修平氏(千葉県)は「拉致」と「公的資金導入の朝鮮信金救済疑惑」に触れなかつた点について抗議を申入れたのに対し、応対した制作担当の落合某は「偏向の意図は全くない」「拉致・朝鮮信金問題は今後も扱ふ予定はない」等と不誠実そのものの応答。

 怒り心頭に発した西村氏、「拉致された人々やその家族の人権を守る気がNHKにないのであれば受信料を拒否する他ないが、宜しいか」と問ひ詰めると黙して答へず。「イエスかノーかを答へられたい」と追及してもひたすらダンマリを決め込むばかり。「余りに視聴者を馬鹿にしてる。何が皆様のNHKだ。かうなればNHKに押しかけてデモか坐り込みでもする他ないのではないか」と西村氏はNHKへの不信と怒りを隠さない。このスペシャルの制作統括は中島靖夫と坂本忠宜。

(後略)

(平一一・六・一七)

平成十二年六月号

拉致事件報道、半歩は前進したものの・・・・・・

 北朝鮮による日本人同胞拉致事件をNHKが曲りなりにも取り上げるやうになつたのは「NHKウオッチングのお蔭です」といふ過分な評価を耳にする。さうであれば執筆者冥利に尽きるものと申すべきだらう。

 だがその取り上げ方にはまだ不満が残る。先回書きそびれたが、三月六、七の両日、拉致された人達の家族や支援者が七日に予定されてゐた北朝鮮へのコメ支援決定に抗議する坐り込みを外務省前(六日)と自民党本部前(七日)で行つた。拉致問題を棚上げしての食糧援助は拉致問題解決を遠のかせるだけでしかないとの立場からだ。七日TBS「ニュースの森」は坐り込みの模様を詳しく報道した。

 一方同日のNHKニュース7は、政府が北朝鮮に十万トンのコメ支援を決定したことを報じ、それに対して拉致者家族達が抗議の記者会見をする場面を放映した。従来のNHKに比べれば半歩前進とは云へよう。だが二日間、風や寒気に曝されての坐り込みの映像は全くなく、生々しい街頭行動の熱気は殊更にカットされた感があつた。お得意のカメラワークを駆使して坐り込みの情景を放映すれば、忽ち広い共感を呼んで大きな国民運動に発展しただらう。だが、それはNHKの絶対にやりたくない部分なのである。そこで屋内の記者会見だけを紹介することで免罪符に代へようとした訳で、この問題に対するNHKの御座なりな姿勢が窺知されるではないか。

意図的なカメラワーク

 NHKの意図的なカメラ操作は、例へば四月十三日ニュース845等と比べる時、歴然たるものがある。ダイオキシン問題で防衛施設庁に抗議する左翼系組織の坐り込みを、参加者全員の顔が写るやうに多様なカメラアングルで何カットも撮影し、坐り込み参加者を英雄視せんばかりの過熱した報道。同じ坐り込み(拉致問題の方が遥かに重大ニュースだが)でもその紹介の仕方がこれだけ違ふのはNHKの政治的偏向によるものと断ずる他ない。

拉致問題は国連人権委に提起せよ

 息子の蓮池薫さんを北朝鮮に拉致された父、さんが拉致問題解決の協力を求める手紙を米国のベンジャミン・ギルマン下院外交委員長(共和党)に送付した。「自国の問題を他国にお願いしなければならないのは情けない」と秀量さんは悔しさをにじませて苦衷を語つたさうだが、ここまで国民から信頼されなくなつた日本の政治家諸公は宜しく慚死すべきだ。

 もし被拉致者救出が我国だけの力に余る事柄であるのなら、何故これを国連人権委員会に提起しようとはしないのか。日頃、政治家やマスコミ、評論家諸君が好んで口にする国連外交、人権外交とは、正にこの拉致問題解決のためにこそ活用すべきではないのか。

出かした「クローズアップ現代」

 ところで平成七年以来、筆者はNHKが拉致問題をNHKスペシャルやクローズアップ現代などの特番で報道するやう再三に亙つて要求してきたが、四月四日クローズアップ現代は「対話は進むか・日朝交渉きょう再開」として初めて拉致問題を取り上げた。しかも、とかく批判のある国谷裕子アナが、人が変つたやうに被害者家族の立場に立つて舌鋒鋭く政府の交渉姿勢を追及してをり、出色の出来映えであつた。

 番組の中で河野外相は、先づ話合ひを始めることが先決である。こちらも食糧支援で誠意を見せたのだから、先方も拉致問題で誠意を示して欲しいと述べてゐたが、お人好し外交もいい所だ。タフな交渉相手に対しては、下世話に謂ふ「(先方の)を握る」ほかに屈伏させる途はない。

 政治部・渕上優子記者の「相互信頼の醸成が先決」といふ結びは甘いの一語に尽きるものの、番組全体を通じて国谷嬢の河野外相追及は御立派。それでこそ国民を代弁する公共放送のあるべき姿だ。九五点を付けておかう。

(後略)

(平一二・四・一六)

平成十四年五月号

(前略)

拉致疑惑≠ノ固執するNHK

 北朝鮮による日本人拉致が疑惑≠ナはなく、紛れもない事実であることが拉致者自身の証言で明らかとなつた。日航機「よど号」乗つ取り犯の元妻・八尾恵女が昭和五十八年、コペンハーゲンで有本恵子さん(当時二三)を誘ひ出し、北朝鮮工作員に引渡したことを警視庁で供述し、東京地裁での別件裁判の場でも証言した。三月十二日の民放は、両親の有本明弘さん夫妻に土下座し号泣して自分の罪を詫びる八尾女の姿を放映した。拉致した工作員の氏名も判明してゐるし、日本人拉致工作が故金日成の指示であつた事実も明らかにされてゐる。日本人拉致が北朝鮮国家による組織的犯行であることは今や歴然たる事実となつた。

 それなのに、である。この日の〈NHKニュース7〉の放送は相変わらず拉致疑惑≠フ文字を麗々しく画面に掲げ、犯罪国家北朝鮮を朝鮮民主主義人民共和国≠ニ云ひ換へる迎合振りだ。その上、「拉致はでつち上げ」といふ「よど号グループ」の主張まで紹介するといふ北朝鮮への気の遣ひやうである。一体、NHKと北朝鮮の間にはどんな黒い関係があるのだらうか。

再度云ふ―拉致問題の特番を組め

 NHKは憶えてゐるだらうか。平成九年十二月六日、NHK報道に対する抗議集会の後、代表十七人が放送センターへ抗議に行つた時のことを――。応対したのは土谷信夫視聴者センター長、望月敏生視聴者センター室長、角野久寿雄同部長の三人。有本明弘氏も我々と一緒だつた。我々の追及が拉致問題に及ぶやNHK側の三人、途端に口を緘して黙秘戦術に出た。「NHKは拉致があつたと考へるのか、なかつたと考へるのか」「拉致問題を何故ニュースで扱はないのか」「拉致問題で特番を組む用意はあるのか」等々の質問にも固く口を閉ざして応答しない。

 厳しい追及にたまりかね、「拉致されたといふ推測だけでは番組は出来ません」(望月)「タイミングを見て放送すると思ふ」(土谷)等としどろもどろの発言はあつたものの、こと北朝鮮の問題となると異様なまでに緊張した様子であつた。延々二時間半に及んだNHK追及団交の詳細は本誌平成十年二月号〜九月号に発表したので御覧頂きたいが、ともかくあれ以来拉致問題は解明の方向に大きく進んできた。特に今回、有本恵子さんのケースは拉致関係者自らが拉致を告白し謝罪するといふ思わぬ展開となつた。もはや北朝鮮による拉致は疑惑≠ナも推測≠ナもない。「事実」として認識し、対処すべき段階に入つたことは確かである。今日、我国にとつてこれ以上の人道問題はない。この問題に頬被りして「人間」「人道」「平和」「友好」を語るほど恥知らずなことはない。NHKはこの一、二年、漸くニュースでは拉致問題を取り上げるやうになつてきたが、今度は特番を組むことを要望する。土谷視聴者センター長の云つた「タイミング」は十分に熟してゐるではないか。

(後略)

(平一四・三・一四)

平成十四年六月号

(前略)

「拉致」が「拉致」に

 三月二十二日、小泉首相の訪韓を伝へるNHKニュースは従来の「日本人拉致」と云ふ表現を「日本人拉致問題」の云ひ方に変更してゐた。有本恵子さんの拉致を実行した八尾恵女の告白などによつて拉致がもはや疑惑ではなく事実として確認された以上、いくら「金首領様」に忠誠を誓ふNHKも「疑惑」の表現を続ける訳には行かなくなつたのだらう。だからといつて「いはゆる」に修正するとは、これまた何と欺瞞的なやり方だらう。「いはゆる」を冠するのは「世間で云つてゐる」「一部の連中の云つてゐる」といつたニュアンスで、「拉致」の事実性を否認する点では「疑惑」と云ふのと全く変らない。こんな表現の修正の仕方一つにも、いかにもNHKらしい率直さの欠如、姑息で卑怯なやり方が窺はれるといふものだ。

 三月三十一日山本、森田両アナによる「総理に問う」にしても、日本人拉致問題に触れたのは一時間の番組があと五分で終りになるといふ頃、森田アナが「北朝鮮、(慌てて)朝鮮民主主義人民共和国との関係ではいはゆる拉致問題≠烽りますが・・・・・・」とほんの付随的に言及しただけで質問の主題とすることは巧みに避けた。「拉致問題にも触れましたよ」といふ云ひ訳を用意するための言及以上のものではない。勿論、「拉致された日本人同胞を取り戻すためにいかに対処するか」等の突つ込んだ質問は全くなし。総理も総理で、「北朝鮮を国際社会に入れることが北朝鮮の利益になると分からせることが大切だ」等と当り障りのないことを述べただけで、拉致問題にはこれと云つた見解を述べることもなし。問ふ側も答へる方も拉致問題には及び腰、お座なりの禅問答で視聴者をごまかした形。何が「総理に問う」だ、と云ひたい。

ニュースステーションに勝てない訳

 そこへ行くと、あの久米宏のニュースステーションが中々立派だつた。平素は批判されることの多いこの番組も、拉致問題については昨今鋭い追及の姿勢を見せてゐる。

 例へば三月二十九日の放送。久米キャスターの横にゐる朝日新聞編集委員の清水建宇氏曰く。「拉致はもはや疑惑≠ナはなく事実≠ニなつてきた。これは世論の高まりの結果と云へる。メディアは今後も一層拉致問題の報道に力を入れてゆく必要がある」と。ニュースステーションにしてこのありだ。NHK関係者は耳の垢をほじくつてよく聴くがいい。

 二年前、Nステに対抗しようと、海老沢会長直々の指名による堀尾正明氏をメーンキャスターとしてNHKの〈ニュース10〉が始つたが、視聴率は一ケタ台を低迷し、途中、森田美由紀アナを加へて補強を図ったものの、遂にNステ圧勝の勢ひを止めることは出来なかつた。これを堀尾アナの責に帰することは出来ない。庶民の感情をストレートに表現するのを憚るNHKの体質がもたらした敗北だ。メーンキャスターはこの四月から今井環氏に代つたが、政治部記者出身の今井氏に果してNHKの構造的欠陥を克服することが期待できるか。拉致された哀れな同胞とその家族の気持に感情移入できるかどうか、他人の悲しみや絶望や怒りをわが事としてコミットすることが出来るかどうか。メディアによつてその不幸や不正を救済是正するのが己の使命であるとの自覚と責任感が今井氏にあるかどうかが、再出発したニュース10の成否を決めるだらう。

(後略)

(平一四・四・一五)

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